ごあいさつ
教育実践コラボレーション・センターから
教育実践コラボレーション・センター長 西岡加名恵
2023年4月に教育実践コラボレーション・センター長に就任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。当センターは、教育学研究科内外の異分野連携・融合を促進し、様々な教育課題に対する組織的な対応をコーディネートすることを目的として、各種の活動に取り組んでいます。
2013年度以来、継続的に開催してきた「知的コラボの会」は、ついに50回を超えました。新しく研究科に着任された先生方に話題提供をいただいているほか、外部の講師を招いた講演会などとして開催しており、毎回、知的刺激に満ちた会となっています。
2023年6月には、当センター監修で、『世界と日本の事例で考える学校教育×ICT』(明治図書)を刊行いたしました。これは、2020年9月から2021年12月にかけて学内経費GAPファンドによるプロジェクト「ポスト・コロナの初等中等教育におけるICT活用に関する研修プログラム開発と具体的提言」に取り組んだ成果を下敷きにしつつ、さらに京都大学大学院教育学研究科を修了した研究者や在学中の大学院生の協力も得てまとめたものです。
2023年5月31日~6月6日にかけては、グローバル教育展開オフィスと当センターの共催として、第24回教育学研究科セミナー「分野横断型意見交換会」を開催しました。その中で、本研究科の強みは、教育について多角的なアプローチを採用しつつ、本質的な概念を根本的に問い直すような研究を進めている点にあるということが改めて確認されました。一方で、本研究科が進めるべきカリキュラム改善などに関する意見も出されました。これらの意見についてはリスト化して教授会でも共有し、今後の改善にもつなげる方向で、現在も検討を続けています。
E.FORUMでは、毎年、「全国スクールリーダー育成研修」を開催し、最新の研究成果や政策動向を踏まえた多彩なプログラムを提供しています。また2023年9月からは、内閣府によるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の課題「ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築」における研究開発「真正で探究的な学びを実現する教育コンテンツと評価手法の開発」(研究開発責任者: 松下佳代教授)にも取り組んでいます。
さらに、大阪市立生野南小学校で開発された「『生きる』教育」に注目し、2023年度より連続研究会も開催しています。「『生きる』教育」は、子どもたちへの虐待予防やトラウマへの治療的アプローチを含むプログラムです。
今度も、当センターでは、教育に関わる様々な課題に取り組んでいきたいと考えています。一層のご協力とご支援をお願いいたします。
(2024年5月)
教育実践コラボレーション・センターから
教育実践コラボレーション・センター長 南部広孝
教育実践コラボレーション・センターは2007(平成19)年4月に、本研究科の「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」を推進すべく設置されました。センターの目的は、現場から持ち込まれた具体的な問題に対し、異分野融合チームを組織するなどして、研究科としての組織的な対応をコーディネートすることにあります。子どもをめぐる教育問題を「生命性」と「有能性」という2つの軸として取り出し、そのトータルな育成の方法を探っています。活動の実施にあたっては、学校や他の機関との連携(コラボレーション)を進めています。現場(フィールド)で生じている個別的、具体的な状況や課題を過度に一般化することなく、その場に寄り添いながら考えていくことを重視しています。また、教育研究におけるさまざまなアプローチを領域横断的に組み合わせながら問題に取り組んでいます。こうした領域間の連携もコラボレーションの一面です。
センターには、学校教育改善ユニット、新しい教育関係ユニット、学習空間創造ユニット、国際関係ユニット、E.FORUMユニットという5つのユニットが置かれており、相互に情報を共有したり意見を交換したりしながら活動を進めています。センターの活動では、どこでも、誰にでも適用可能な「答え」を追求するわけでは必ずしもありません。むしろ、それぞれの活動のプロセスにおいて、参加者同士が関わり合う中で「その場」で得られるものを大切にしています。それは、現在の「研究成果」に求められている普遍性や一般性を有しているとは言えないかもしれませんが、活動の参加者を含む人びとの共感や納得に結びつくこともあれば、新たな発想へとつながることもあると考えています。
2020年に入ってからの社会情勢では、人と人とが対面して交流すること、相互に関わり合う「場」を設定することが容易ではなくなっています。同時に、情報技術を用いることで、人と人とが空間を越えてつながること、新たな「場」を作り出せるということも身近に経験するようになりました。前者の制約にしても後者の可能性にしても、センターのこれまでの活動を見直して、新たなアイディアを生み出したり新たな取り組みを始めたりする契機になるように思います。
教育実践コラボレーション・センターの活動を支えてくださっている教職員、大学院学生、学外でご協力いただいている皆様に感謝しますとともに、これからもご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
(2020年5月)
教育実践コラボレーション・センターから
心理臨床学講座 教授 教育実践コラボレーション・センター長 桑原知子
教育実践コラボレーション・センターでは、各教員がフィールドに関わりながら、実践に基づいた研究活動を続けておりますが、さらに、その成果を社会に還元すべく、「科学研究費補助金事業」への応募をおこなっておりました。
その結果、このたび「平成25年度基盤研究(A)」に追加採択されることが決まりました。 研究課題名は、「学校を中心とする教育空間における力動的秩序形成をめぐる多次元的研究」です。
現在、校内暴力、不登校、学級崩壊、いじめなどの報道が毎日のようにみられます。そしてこれらは、学校教育の秩序を揺るがす問題だと定義され、それへの対応として、秩序から逸脱した人や状態をどのように秩序の中に回収するのか、乱れた秩序をどのように再び平衡に戻すのかということが考えられてきました。しかしながら現在、この前提が崩れはじめ、学校のみならず、地域・社会、家庭においても、これまでの秩序にもどせばいい、という発想ではうまくいかなくなっているのが現状ではないでしょうか?
グローバル化や電子メディア空間の影響もあって、既存の秩序への再編というストラテジーがもはや無効になっていると言っても過言ではないように思います。
そこで、今回の研究課題においては、学校、地域・社会、家庭、電子空間といった複数の空間での人々の相互作用の在り方を解明し、秩序のゆらぎがどのようなものであるかを明らかにするとともに、その中で、どのような秩序が動的に、新たに、立ち上がってくるのかということを探求しようと考えています。
これまでのコラボレーション・センターでの活動実績やフィールドとのつながりを生かしながら、現代の子どもをめぐる重要な問題に対して、なにがしかの貢献ができることを願っています。
みなさま方のお力添えを切にお願い申し上げます。
教育実践コラボレーション・センターから(2013.7.24更新)
教育実践コラボレーション・センター センター長 桑原知子
教育実践コラボレーション・センターの活動が、昨年度からは、教育学研究科の日常的な実践として行われてまいりましたが、無事に一年を過ぎ、今年度は二年目に入りました。
昨年度末には、コラボレーション・センター所属教員が執筆に関わった「最終報告書─円環する教育のコラボレーション─」もまとまりましたので、ぜひお目通しくださいませ。コラボレーション・センターの活動は、平成19年度から実施されてきた「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」のコンセプトを継承するとともに、新しい展開も推進しております。
新しい展開の中心をなしているのは、他の機関や学校との連携(コラボレーション)です。たとえば、京都家庭裁判所との間では、離婚後の親子関係をめぐる問題解決や、非行少年に対する、親を巻き込んだ更生プログラムの構築など、現代の家族関係に踏み込んだ取組みを行ってまいりました。毎月、本学法学部の先生方にもお出でいただき、家庭裁判所・調査官の方々とともに、研究会を開催し、議論を深めております。また、3月7・8日には、童仙房にて、これまで慎重に検討を進めてきた「親子合宿」が実施され、意義が認められました。このように、現代の家族・親子の問題について、現場に密接にかかわるかたちで理解と貢献を目指す活動を行っております。
また、高大連携の活動も盛んです。たとえば、和歌山高校とは、密接な連携を図りながら、生徒がいかに有能性と生命性を高めることができるか、さまざまな立場からともに知恵をしぼり、実践をおこなっています(和歌山高校・京大連携プロジェクト)。こうした取り組みに関わる院生たちは、さまざまな講座に属しており、講座を超えて連携(コラボ)するという、従来にはない教育実践がおこなわれており、教育的意義も高いものと思われます。
このように、コラボレーション・センターでは、今喫緊の課題となっている、教育の諸問題について、これからも積極的に関わっていくつもりでおります。さまざまな活動を支えていただいている皆様方に心より感謝するとともに、今後のさらなるご協力とご支援をお願いいたします。
いかにして「コラボ」していけるのか
教育実践コラボレーション・センター センター長 桑原知子
平成19年度から、教育学研究科の新しいプロジェクト「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」(平成19年度から平成23年度)が立ち上げられ、教育実践コラボレーション・センターとして、さまざまな活動をおこなってまいりました。この間、関係各団体や諸方面の方々には、並々ならぬご尽力を賜りましたことを、この場を借りまして、こころよりお礼申し上げます。
「事業」としての期間は完了し、今年度からは、試みではなく、日常的な実践としてその活動を行っていくことになりました。つまり、これまでに築かれてきたさまざまな関係性をそのまま継承し、一過性の試みに終わることなく根付かせていくことが、これからのコラボレーションセンターに課せられた使命かと思っております。
コラボレーションセンターの「コラボ」とは、「協力・協同」するという意味を持っています。現代の喫緊の教育課題とされている「不登校」「いじめ」「発達障害」の問題に対応するためには、子どもたちの「こころ」に触れていく必要があり、これは、ひいては、子どもの「生命性」を育てることにほかなりません。一方、教育現場においては、学力を育てることが忘れられてはならないのも言うまでもなく、子どものもつ「有能性」を育てることもまた同時に重要な課題となるわけです。幸い、教育学研究科は、「教育科学」と「臨床教育学」という、まさに「有能性」と「生命性」とに対応した2専攻から成っており、こうしたコラボレーションを支える土壌があると考えられます。
教育現場のみならず、家族・職場など、私たちが日々活動し、生きている「場」は、いつも「コラボ」を必要としていると思います。ただ、この「コラボ」はそう簡単なものではありません。それは、コラボしようとする「二つのもの」は往々にして矛盾していたり、両立させることが難しいことだからです。たとえば、不登校を例にとるとき、教師は、その子の「有能性」を伸ばすことを念頭におくとき、「ぜひ学校に来てほしい」と願うでしょう。しかし、そうした登校だけが子どもためになるのではなく、この不登校という現象を通じて、子どもがその「生命性」を培い、これから先の長い人生をたどっていくための培養のときを送っているのだとすれば、登校刺激だけが子どものためになるのではないことも、今の教師はよく知っています。そうして、教師は悩み苦しみ、対応にまどうのです。
では、どうすれば「コラボ」できるのでしょうか?それに対する「一つ」の答えがあるわけではないように思います。しかし、子どもに関わる大人がそこから逃げることなく葛藤することで、関わる人の「個性」が立ち現われ、また、子どもは、そうした大人が使う「エネルギー」を感じ取っていくのではないでしょうか?子どもたちは大人がどれほど自分たちに「こころの」エネルギーを使ってくれるのかということに敏感なように思いますし、また、それに対しては正直に反応してくれるように思います。
当センターが、そうした困難な課題に取り組むうえで、少しでもお役にたてれば、と願っております。そして、このような困難な「コラボレーション」を支え、推進するためには本学研究科のスタッフと院生・学生たちとの、さらにはさまざまなフィールドを担っている皆様との「コラボレーション」を必要とします。今後とも、センターへのご理解とご指導を賜りますよう、切にお願いする次第です。